雲のあなたは春にやあるらむ

雪のチラつく中に春を迎えました。それでも、公園の梅は今年も健気にそっと可憐な花を咲かせてくれています。

数日前に営んでいたお店の原状復帰工事が終了し、道行く人はそろそろ、あれ?ここ何かあったよね何だっけ?なんて思われているかもしれません。ようやく物理的には閉店作業が完了したのです。

そして自宅には、お客様台帳やら多くの伝票類、見本キレ、日々を支えていた身の回り品、さらには工事で取り外した看板や型紙やらを整理して収納しました。実は、1年以上も前から閉店後を予測してスペースを作っていました。おかげですんなりと静かに予定通りの場所に収まりました。なんだか、元からここにあったかのように。

思い返せば、あの日々は、目に見えぬ空気の塊が年々大きく膨らんで、まるでお店からはみ出しそうになるぐらい迫り来て、最後には呼吸を妨げるほどになっていました。けれど、コンパクトに収納されたものたちを見ると、なんだこんなちっぽけなことだったのか。私は途中から、いやもしかすると最初から?何かを間違えていたのではないか?などと思ったりします。

しかし、名残惜しいあの店は、そうであるからこそ多くの人に愛して頂けたのかもしれないな、とも思います。例えば、あの大きな空気の塊は、お客様や取引先様からお店に託されたもったいないほどの色とりどりのご期待の粉であり、それを私が取りこぼすことのないようにとせっせとかき集め、透明な袋に入れて温めたり振り回したりして空気に溶かし、どんどん目に見えぬ袋を膨らませていったのかな。そして、恐らくそれは最初から自分に課した試練であったのだろうとも思います。きっと私は、もう一度やり直したとしても、そんな方法でしかできないのだろうとも思います。

そして今、あの目に見えぬ大きな空気の塊を抱え続けた日々を、懐かしく愛おしく思える春がやってきたようです。

今月からは新しい人生を歩き始めなければなりません。まだまだ、胃腸の具合は思わしくなくて、雪もちらつく霞がかった始まりではありますが、でもでも・・・

冬ながら空より花の散りくるは
雲のあなたは春にやあるらむ
(古今和歌集)

きれいに並べたお客様台帳の棚の扉を開く度に、たくさんの感謝の思いを静かに胸に収めつつ、さて!参ります、新しい道のその先へ。

これまで私は、ほとんど自分自身という存在をないがしろにしてきたようにも思います。けれども、これからは、できるだけ大事に大事にしてあげようかな、とも思ったり・・・

で?何を始めよう?あっ、まずはあそこへ行って、あれを買って、それも習ってみようかな💦

広い広いこの世の隅々まで、ゆっくりそろりと、新しい春が始まります🌸