新緑のGW!エメラルド色の秘境にて(三重県大杉谷)

渓谷と夏山

GWに体験した素晴らしい山の思い出に浸っています。

今回は、何しろ、思い返してもドキドキするほどの満点のスリル、感動しきりの大絶景!日本三大渓谷の一つに数えられるその場所を大縦走してまいりました。お時間がありましたら、ぜひ、画像だけでもお付き合い下さいましたら嬉しいです!

そこは、東京からはとっても遠い秘境です。日本三大渓谷をご存じですか?1つは言わずと知れた富山県黒部ダムの黒部峡谷、2つ目は新潟県十日町の清津峡、さらにもう一つが今回訪ねた大杉谷渓谷です。

大杉谷渓谷吉野熊野国立公園の一部で、国の天然記念物にも指定されているという山深いエリアです。以前から知ってはいたものの、行くだけで半日以上を要するため尻込みしていました。が、アラカンの年齢となり、もうこれ以上膝が痛くなると歩けなくなってしまう?という危機感と、相棒ヘッポコのたっての希望もあり、満を持してのトライ!となりました。

大杉谷は年間降水量4000mmを超える日本で最も雨の多いエリア。しかし、その雨による浸食作用で圧巻の大渓谷が形成されているのです。

大瀑布とエメラルド色の渓流は、全行程(途中で宿泊した山小屋の夜にも)絶え間なく激しく心地よい水音を響かせ、緑濃い樹林には鳥の鳴き声がこだまし、乱立する巨岩は行く手を阻むように聳え立つ。それはもう秘境中の秘境ともいえる、神秘的な世界でした。

東京からは新幹線を利用し名古屋でJR南紀に乗り換えて三瀬谷駅へ、その後登山バスで渓谷入口まで、朝6時の新幹線に乗っても登山口到着は何と12時前!という遠距離です。しかし、もし体力と足に支障がなければ、ぜひご紹介したい場所だと実感してまいりました。

私たちが歩いたのは、三重県多気郡大台町の大杉谷渓谷登山口➨➨奈良県上北山村の百名山大台ヶ原日出ヶ岳山(標高1695)へと抜ける「大杉谷踏破コース」です。全長約16km、高低差1,415mの登山道を、一泊二日かけて縦走いたしました。

途中、高度感抜群の9つの吊り橋と、轟音を響かせる7つの清流の滝をめぐる、この間、携帯電話も一切繋がらない、険しい秘境旅です。

渓谷では、ほとんど全行程が鎖場と言っても過言でないほど、命を守る太い鎖ががっつりとつけられています。登山センターの人からも「鎖から絶対に手を離さないでください。一昨日にも一人滑落されてヘリで搬送しました。くれぐれも油断禁物」と注意を受け、眠気がシャキッと覚めてのスタートです。

何しろ北アルプスよりも滑落比率が高いと言われる中級者登山道ゆえ、万年初心者気分のヘッポココンビにとっては、気合い入れなおし!緊張感を持って、ハリキッテ、イザLet’s go!

《一日目:標高差200m》

と言っても、森の中に入ると途端にほにょりと気分が和らぎ、いきなり眼下に見えるエメラルド色の素晴らしい透明な川面に、きゃ~キレイ!

(あっ、鎖場で手を放して写真を撮るのも禁止!と言われたばかりでした💦)

でも、ちょっと見て!この川が濁ることなく、青空を映し、一泊二日の全道中、ずっと私たちのそばを流れてくれるのです。

最初の吊り橋は楽勝ですが、この後奥へ入れば入るほど、吊り橋の長さと高度が上がります。でも、頑丈な吊り橋は安定感抜群。

山は新緑の緑を豊かに茂らせ、山藤が可憐な薄紫をそえていました。

吊り橋が続きます。揺れます。登山道は平坦ではなく、岩場のアップダウンが基本の道のため、吊り橋があるとホッとする💦

そうそう、こんな登り。苔むす岩場です。左側は常に切り立った崖なので、もし手を放して足をツルンと滑らせるとヤバいです。とはいえ、普通に歩けば大丈夫。

ほどなく、河原に到着しました。京良谷(きょうらたに)。早速でありますが、休憩です。だって朝4時起きですから、ここで昼ごはん。

水が冷たくて、とっても気持ちが良い場所でした。

実は高所恐怖症です💦なので、もう両手両足の4本を使って、へっぴり腰で這いつくばって岩肌と対峙いたしました。

でも、こんな気持ちの良い道もあり、一日目の前半は、程よい渓谷探検気分で進みます。

※あっ、ヘルメット推奨です。奥穂高岳以来のヘルメット持参でしたが、実は・・・汗がスゴイし窮屈だし、みんなが意外とつけてないと知って、この後は帽子に変えました。

実は私は三重県の生まれです。だけど三重県は南北に長く、この渓谷のことを知らずに幼少期を過ごし、長~い年月をかけてようやく辿り着いたという情けないことでありますが、今回訪ねることができて本当に良かった。

きっとドローンで見たら、底の見えない別世界、深い深い森の渓谷なのだと思います。

そんなに道の端っこを歩かなくても、と思われるかもしれませんが、右側の岩が突き出てくるので、端っこしか進めない。あっ、大丈夫です、鎖から手を離さなければ!

この日は晴れです。でも、渓谷の岩場はしっとりと濡れていて、多くの滑落者は鎖から手を放した瞬間に運悪く足を滑らせてツルンと何メートルも落下しちゃうのだそうです、だから両手を使って、よいしょ!「

初日のハイライトゾーン「シシ渕」が見えてきました。

その前に、岩のトンネルを通過します。

常に水が滴り落ちて、足元が濡れていて、左側がストンな崖になっているため滑落多発ポイントになってます。用心しながら、ゆっくりね。

で、絶景の休憩ポイント「シシ渕(ししぶち)」❣到着。

周囲を絶壁に囲まれたシシ渕は、大杉谷渓谷を代表する絶景ポイントであります。

何年も前からここに来たくて仕方のなかったヘッポコ相棒は、感無量(^^;)。

絶壁に囲まれた渓谷の奥に見える滝は「ニコニコ滝」というそうです。

エメラルドグリーンに輝く、翡翠色の水面。この豊かな水の美しさは、ここでしか見られないと思います。GWただ中で多くの人が休憩していましたが、あまりの透明度に、誰も足を入れようなんて考えもしないようで、ただひたすら、ため息と歓声に包まれていました。

しっかりと心の隅々まで浸った「シシ渕」を後にして、今夜の宿「桃ノ木山の家」を目指します。

岩肌を水が流れ落ちてきていました。大自然の深く豊かな懐から、溢れんばかりに湧き出てくるようで、とても満たされた気持ちになります。

シシ渕から絶壁の向こうに見えていた「ニコニコ滝」。落差50mを何の迷いもなく、真っすぐに落ち続けています。圧巻!

平等嵓(びょうどうぐら)吊り橋から平等嵓。「(ぐら)」とは、岩という文字の古語だそうで、切り立った崖という意味。高さ100mを超えるむき出しの崖。これまた、もう大絶景です。

やばい、足が、膝が・・・、もうあと一息登れば、今夜の宿に到着するはず。がんばれ膝💦

ということで、出発から約5時間ほどで、ようやく今夜の宿「桃ノ木山の家」に到着しました。創業昭和15年、関西最大規模の山小屋だそうです。実はここ、お風呂があります。お湯につかるだけしかできませんが、それでも膝をゆっくり温めて、汗を流してホッといたします。夕食はカツカレー。

残念ながら夜は曇りで満点の星空を仰ぐことはできませんでしたが、渓流沿いの宿の夜は、絶えることない水音と野鳥たちの鳴き声が子守歌zzz。

《二日目:標高差1100m》

山の朝は早くて、朝食は5時半!卵かけご飯とか色々。そして7時前には出発です。

何しろ2日目は、奈良県の百名山「大台ケ原(日出ヶ岳)」まで登りつめる長い試練が待ってます。ここから元の登山口に戻るという選択肢もあるのでありますが、私たちは先へと進む。進めば進むほど、最終地点まで突き抜けなければ、どこにも帰ることができないという、これまた秘境のだいご味でもあります💦

さて今日も、心強い味方、鎖場!

ほどなく「七つ釜滝」。数段にわかれた滝と滝つぼが連なる、日本の滝100選に数えられる名瀑です。全容を撮影するのが難しいのですが、なんと落差80m。

一日目よりもさらに秘境感が増して、ちょこっと怖い箇所が多くなりました。ゆっくりゆっくり一歩ずつ。

川は今日も、空の色を含んでエメラルド色に煌めいているのですが、足場は昨日よりも不安定になり、高所恐怖症が爆発寸前💦

大げさだ!と言われようが、私の場合、鎖は両手でつかみます。するとへっぴり腰があらわに・・・すみません。

ここは通称崩壊地!2004年の台風により山肌が崩壊し、家一軒ほどの無数の巨岩で埋め尽くされた場所です。あの岩の山を越えて行く!

どうやってこんなに岩が積みあがってしまったのか、自然の猛威に振るえますが、とにかく越えねばなりません。だからやっぱり四つん這い!

ここを超えると、ホッとするような河原に出ます。ヘッポコ相棒はヒョウヒョウと二本足で歩いていますが、この後、濡れた石に足を取られてツルンと滑り、岩にあばらを打ち付けました。どうやら、山小屋で顔見知りになった皆さまも、膝をぶちつけたとか、足をひっかけたとか、何かしら、アザを作っておられるようでした。

しかし、慎重というより怖がり過ぎる私は、何しろ両手両足を使っていますので、不格好ではありますが、ケガなし(^^;)ⅴ

あっ、あれは光滝☆

光滝(ひかりたき)です。裾が大きく広がった優美な滝で、滝つぼがありません。激しく落ちる水が岩盤に当たって砕け散るところに太陽の光があたって、光輝くようにきれいでした。

吊り橋からこっそり見える「隠滝(かくれたき)」

そして、二日目のハイライトゾーン「堂倉滝」到着!

ここも滝の轟音がこだまする、大杉谷を代表する絶好ポイントです。大杉谷渓谷縦走の最後の滝であり、この後は長く険しい山道の試練が待ち構えているため、堂倉滝で長い休憩タイムです。

水しぶきが降りかかってとても涼しいです。

煌めく水面に吸い込まれそうな気がしてまいりまして、思わず意味もなく怖くなり・・・💦 いやはや、この水の奥深く、何者かが住んでいるのではないか?という私だけの妄想が頭をよぎりました。

そして、道中や山小屋で耳にした「ここからが辛い!」という、登山エリアに突入です。こんな木の根の急坂を一気に登りつめて行かねばならぬのですが、堂倉滝で休憩し過ぎて、いつの間にか、私たちヘッポコ二人はシンガリとなっていました。

最終ゴールの大台ヶ原で午後4時のバスに乗らねばなりません。何しろバスは一日一本、4時だけ。いやいやまだ11時過ぎ、全然余裕だよ、という呑気な相棒の言葉を信じて、とにかく膝をかばいつつ、ゆっくりゆっくり一歩ずつ。

がしかし・・・辛過ぎた💦そのため、この後の写真がほとんどありません。

経験では、北岳・奥穂高などなどの3000mアルプスよりも辛く思えてしまったのは、渓谷歩きで体力を使い果たしてしまったからかもしれません。

途中に「粟谷小屋」という小屋があり、そこで水の補給とお昼休憩に立ち寄りましたら、昨晩の顔見知りの方々が休憩終えて出発されるところでした。とっても焦ってしまったわけなのに、いやまだ大丈夫!というヘッポコ相棒の根拠なき励ましが、さらに気持ちを焦らせる。

と、あれ?ピンク色の愛らしい花がちらほらと眼前を癒し始めてくれました。

なんと、ここ大台ヶ原の山道の名前「シャクナゲ坂」というのでした。

ああ、シャクナゲ。大台ヶ原山にはシャクナゲが自生していて、毎年5月下旬ごろから見頃を迎えるそうです。よく見ると、長い登山道はシャクナゲの木がいっぱいでした。きっともうすぐ華やかなピンクの回廊になるのかな、と思い描きつつ、フーフー♪ハーハ―💦

シャクナゲ平で一休み。と言っても、座り込むと立ち上がれなくなりそうで・・・。とても笑顔も作れそうにない疲れっぷり。今や私の体じゅうの筋肉(というか脂肪)はどこもかしこも、経験したことのない痛みに悲鳴を上げているのではないかって思ったほどでした。

でも、シャクナゲ。あなただけが、私たちの希望です、なんてまた大げさ過ぎることを口走ったりして(^^;)。

こんなに可憐な花でありますが、シャクナゲは高山植物で、足元の悪い厳しい環境でも花を咲かせる逞しい植物です。たぶんきっと、あなたのことは決して忘れることはないでしょう。

や~と、平らな道に出ました!もしやあの上が頂上なのでしょうか?ちょこっと気持ちがウキウキしてきました。

まだ2時過ぎ。な、余裕だろ!というヘッポコもさすがにヘトヘトで、最後の木の階段がどれほど長く感じたことでしょう。

やった~!!到着しました。大台ヶ原「日出ヶ岳」山頂(標高1695)。展望台到着午後2時半!

粟谷小屋で先に出発された顔見知りさんとも再会して、いやはや、とにかく良かった良かったと握手してしまいました。

ヤッホー、青空バンザイ\(^o^)/です。

ここ大台ヶ原は、たくさんのハイキングコースのある、とても良い山です。もし大杉谷から縦走したのではなかったら、もしここを目標にしたのだったら、どんなにかほのぼのとした休日を過ごせただろうと思いますが、もうすでに全身の痛みで、木道を降りるのも必死💦

ゆるやかに整備された道すがら、たくさんの野鳥のさえずりが聞こえていました。

そして無事に4時のバスに乗り、2日目の夜は、一路東京へ!とすると深夜になってしまうことから、バスを途中下車して、奈良県川上村「湯盛温泉杉の湯」という温泉宿でお世話になりました。

露天風呂に美味しいご飯、吉野川大瀧湖に面したお宿で、眠りについたのは早々に午後7時半!ヘッポコそろってバタンキュー!💤

というわけで、この度は長い山レポにお付き合い下さり、すみません。ありがとうございます。

積年の願いが叶った相棒ヘッポコは「堪能した!」を連呼しており、とても良かったのでありますが、途中で打ち付けたあばらの痛みは病院にかかる羽目となり、私の膝も痛いです。そんなアラカンコンビにとっては満身創痍の山行となりましたが、奇跡的に連日晴れに恵まれて、本当に、このタイミングで行けて良かった!です。

深田久弥は『日本百名山』に、大杉谷のことをこう書いていました。「これは見事な谷である。次々と素晴らしい滝が現れる。水は清く豊かで、渓谷の美しさは日本中で屈指といっていい」

日本という小さな島に長年にわたり生きていても、ほとんどの土地を知らない私たち。もうこれから先、どれだけの場所を訪ねることができるかわかりませんが、この大自然に生かされてきたことに感謝の念を持ちながら、この島の懐の奥を、足腰動くもう少しの間、お互いを労わりつつ、そろりそろりと訪ねてまいりたいなと思います。

ご興味ありましたら、ぜひおすすめです

*大杉谷ルート詳細→こちら*

*大杉谷ガイドブック→こちら*